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バレット食道(Barrett's esophagus )について


食道は、体表の皮膚と類似した扁平上皮(へんぺいじょうひ)という粘膜でおおわれています。その扁平上皮の粘膜が、胃の粘膜に似た円柱上皮に置き換わった状態を、その報告者の名前からバレット食道と呼んでいます。

1.

原因は?

 逆流性食道炎(ぎゃくりゅうせいしょくどうえん)(胃食道逆流症、GERD)が長期的に続くことです。欧米では、食道がんの約半数はバレット食道から発生する腺がんであり、バレット食道は腺がんの発生母地(ぼち)として注目されています。

 日本では、食道がんの90%以上は扁平上皮から発生するがんなのですが、ライフスタイルの欧米化などにより将来的にバレット食道がんの増加が危惧されています。日本の独壇場である精密な内視鏡検査では、10〜20%の症例にバレット食道が観察されます。

2.

分類

 本来の食道胃接合部(食道壁と胃壁の境界部、EGJ)から食道側への円柱上皮(CLE)のはい上がり(SCJ迄)が3cm未満(ショートバレット食道:SSBE)と3cm以上(ロングバレット食道:LSBE)とに大きく分けます。

 欧米の報告ではLSBEが多くなっていますが、日本ではほとんどがSSBEで、LSBEまで進展する症例は少数です。この理由は、現在のところはっきりわかってはいないのですが、一因としてヘリコバクター・ピロリ(HP)の胃内での感染率の差が考えられています。

3.

HP感染症との関係

 日本ではHPの感染率が高く、その影響で萎縮性(いしゅくせい)胃炎の頻度が高く、酸分泌領域が減少して食後の酸分泌量の絶対量も少なくなります。一方、欧米人ではHPの感染率は低く、萎縮性胃炎の症例も少ない傾向にあります。

 逆流性食道炎を来す攻撃因子の違いが、日本人と欧米人でのバレット食道の発生頻度および形態の差となっていると考えられています。

 欧米人の中でも、黒人やヒスパニック系に比べて、白人でバレット食道の発生率が圧倒的に高いことから、逆流性食道炎以外の、何か人種的な因子があるのではないかとも想定されています。

4.

バレット食道の症状

 逆流性食道炎にみられる胸やけや苦い水が上がるなどを訴える人が多いのですが、まったく無症状の人も少なくありません。

 LSBEの症例では、胃酸逆流に対する内臓知覚のメカニズムが荒廃(こうはい)していて、無症状のままLSBEが継続し、がんが発生・進行して症状が出るまで気づかない可能性もあります。

5.

治療法

 日本では、Barrett食道がん発生の頻度が少ないことから、無治療、あるいは酸分泌抑制薬(PPI、P-CAB)の内服だけで経過をみることが多くなっています。

 欧米では、発がん予防の観点からバレット食道に対する内視鏡的焼灼術も試みられていますが、日本ではほとんど行われていません。現在のところ、国内のバレット食道経過観察症例で、進行がんまで発展した症例は報告されていません。

6.

バレット食道がんの診断法

 SSBE症例では、専門医でもかなり慎重に細かく内視鏡観察を行っていかないと、ごく早期のがん症例を見落とすであろうと予測される病変が指摘できるようになりました。

 この分野では、日本が得意とする高度な内視鏡技術(色素内視鏡、光デジタル観察、BLI観察、BLI-bright観察、LCI観察および拡大内視鏡観察等)の開発と発展に負うところが大きいです。

7.

バレット食道の経過観察

 一度バレット食道と診断された段階から、なるべく同じ専門医の定期的(年1〜2回)内視鏡検査を受けることが良いでしょう。

 バレット食道にがんが発生した場合には、表在型早期食道がんであれば、開胸・開腹手術は不要で、ESD(内視鏡的粘膜下層剥離術)治療で済みます。


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